1)国際的な動き
ICSUの計画グループは、各国の研究者や関係者と、全体計画を策定するために、意見の交換を続けている。特に、次のような国際的な会合にはIPYのセッションが設けられ、重点的に討議が重ねられた:
5月24日~6月4日、第27回ATCM南極条約協議会議(南アフリカ、ケープタウン)
7月25日~31日、第28回SCAR南極研究科学委員会/第16回COMNAP南極観測実施責任者評議会(ドイツ、ブレーメン)
日本以外の国々も、まだ足並みは揃っていないが、それぞれIPY-4へ向けての活動を開始した模様である。
9月末で、ICSU計画グループは解散し、10月1日からICSU/WMO合同、IPY-4実施委員会が発足する。ICSUおよびWMOは、8月下旬に、日本を含めた各国へ、委員候補者の推薦を別個に依頼した。また、実施委員会事務局の設置場所も公募されている。
全体の動向を把握するには、IPY公式HPをのぞいてみることをお勧めする。
http://www.ipy.org/
2)国内の動き
日本国内でも、IPY-4へ向けた準備が進行している。
・上記2つの国際会議に、参加者を派遣した。
・National Programとしての、日本のIPY-4研究計画をとりまとめた。
・実施委員会委員日本代表候補の選定を検討した。
・ICSU計画グループ委員長のChris Rapley博士(英国南極調査所所長)を日本へ招き、10月19日に講演会を開催する。追って、詳しい案内をさせていただく。
・第4回国際極年のアウトリーチとして「中高生南極北極オープンフォーラム」を立案し、実施準備を始めた。
7月25日-31日に開催されたSCAR/COMNAP会議の枠内で開かれたオープンサイエンスコンファレンスは、IPYへの準備をを進めるに当たって、貴重な機会であると判断し、国内委員会は参加者のうち若手の研究者若干名に旅費の補助を行った。出席者から以下のような報告を受けている。
A 「第28回SCAR Open Science Conference参加報告 - IPYに向けての南極大陸・南太洋域における地学分野の取り組み」
外田智千 国立極地研究所
7月26~28日にドイツのブレーメンでSCAR/COMNAP総会と併せて開催されたSCAR Open Science Conferenceに参加した。Open Science Conferenceに充てられた3日間の日程のうち、初日から2日目の午前中にかけてOpening CeremonyとKeynote Presentationsが1000人規模の聴衆を収容できる大ホールでおこなわれ、2日目の午後から3日目にかけて数十人〜百人程度収容の会場に分かれての個別のセッションがおこなわれた。全22セッションの中身は、南極・南太洋域の生態系、第四紀環境・気候変動、基盤地質、測地、大気、超高層物理、天文まで多岐にわたっていた。十数会場に分かれていくつものセッションが同時進行しており、聴きたいセッションに迷うこともあった。ポスター発表は、企業展示と同じホールでおこなわれ、夕方のコアタイムはポスターの展示列に入り込めないほどの盛況であった。
3年後の実施を控えて、やはりIPYに向けてのプロジェクトと銘打った発表もあったが、多くはこれまでの科学的成果の発表というスタイルであった。私自身の関係する地学分野、特に大陸進化と南太洋発達史については、現在の地球環境・生態系への転換期となったゴンドワナ超大陸の形成と分裂の鍵となる地域として南極大陸の重要性や、他の大陸と比較してのアクセスや調査の困難さに起因するデータの少なさが痛感された。また、我々とも関係するゴンドワナ形成過程の研究をしているメルボルン大学のポスドクがSCARのPrince of Asturias Prizeを受けたことは、近年のこの分野の研究の進展を示すものとして喜ばしく思う。将来へ向けたプロジェクトとしては、特に南極半島を調査テリトリーとする国々が中心となって進められている南極を取り囲む海洋プレートの進化とその後の南極域の気候変動とをからめた研究計画群が、IPYに向けての戦略・野心を感じさせるものであった。IPYの1つのプロジェクトとして今後も推進される南極域の地磁気異常マップ(ADMAP)の新たなデータも報告され、日本が計画している日独共同航空機観測によって得られるデータの重要性も再認識させられた。
とはいえ、4年に一度の南極地学国際シンポジウムがちょうど昨年同じドイツのポツダムで開催されたばかりということもあり、地学関係の発表は予想よりもはるかに低調であったことは否めず、今回のシンポジウムのタイミングの悪さは自分の関係する分野としてはやや残念であった。
B SCALOPシンポジウム発表
下枝 宣史、千葉県済生会習志野病院
2004年7月28日、ブレーメンにて行われたSCALOPシンポジウムで、以下演題名によるポスター発表に臨んだ。
Morbidity and health survey of wintering members in Japanese Antarctic
Research Expedition---Life styles also do harm as severe Antarctic climate.
第一次越冬隊以降の入手可能な記録に基づいた昭和基地傷病統計、その中で生活習慣病に関わる異常が近年増加の印象があること、最近数次の生活 習慣病に関連する医療・医学研究の概要と、第43次隊での定期健康診断に際して得られた血液検査データから、越冬隊員における生活習慣病の傾向を分析し た結果である。
当初は予定されていた5~10分間程度の口頭による説明セッションが、実施されず、 指定時間帯に掲示ポスターの前に待機し、見学者と自由なディスカッションを行うスタイルでの発表となった。
設営全般のシンポジウムであるSCALOPでは、医学医療関連の演題は他に見当たらず、SCALOP医療担当であるフランスの Dr. Bashelard と同国のチームが時間をかけてポスターを読みつつ、詳細な質疑応答を求めた。また、生活習慣病の問題が一般隊員にとっても懸念となりつつある事情は各国 共通のようで、医療関係者以外の見学者もあった。インドの地質学者からは、同国の越冬隊では生活習慣病予防と健康増進のためにヨガを実施するグループ と、それを行わないグループとで結果の比較研究を行っている、などという興味深いコメントを得た。
他に、別日のOpen science conference ポスターセッションで、イタリアの夏隊における食事と健康の関連について報告されており、イタリアのチームとの間で栄養調査の方法などにも踏み込んで議 論する機会もあった。
今回のSCARにおいて、越冬隊の健康管理問題の提起と討論の機会を得たことは有意義な体験となった。貴重な機会を与えて下さり、また日本での準備段 階から現地での発表一切にわたって懇切にご指導くださった先輩諸氏に、この場をお借りして御礼申し上げる。
C 第28回SCAR 総会に参加して
細川敬祐 電気通信大学 電気通信学部 情報通信工学科
この度、科研費補助金「第4回国際極年(2007/08)への日本からの提案に関する企画調査」(研究代表者、島村英紀)の補助を頂き、第28回SCAR総会に参加させていただきました。私は、上海での第27回SCAR総会にも参加しましたが、今回のブレーメンでの会議はより多くの参加者があり、会議として非常に活気を感じました。Open Science Conferenceだけでなく、自身の専門分野に関連したBusiness Meetingからも多くの知見、情報を得ることができ、有意義な時間が過ごせました。貴重な機会を与えてくださった島村研究代表者及び関係の方々に深く御礼申し上げます。
私の専門は、極域超高層大気物理学です。現在は、極域大型短波レーダー観測網のデータを用いて、極域夏季中間圏エコーと呼ばれる現象を研究しています。このレーダーエコーは寒冷化した夏季中間圏において生成された氷がその起源と考えられており、中間圏の温度構造を顕著に反映する現象として注目されています。私は、この現象の出現頻度に南北半球間差異が存在することを、短波レーダー観測から示しました。この事実は、中間圏の温度構造が南北半球で非対称である可能性を示唆するものです。この結果を、「Antarctic-Arctic Conjugacy」というセッションにおいて発表し、関連の研究者から有益なコメントを頂くことができました。
超高層大気物理のグループにおけるIPY-4に関連した取り組みに、ICESTAR (Interhemispheric Conjugacy Effects in Solar-Terrestrial and Aeronomy Research) というプロジェクトがあります。このプロジェクトは、磁力線によって繋がれた南北両半球の超高層大気に見られる諸現象(オーロラ、磁気嵐等)の物理過程を、その共役性を鍵にして解明しようというものです。アメリカ、中国などがIPY-4に同期する形で、南極に大型短波レーダーを建設する予定です。これまで、観測の容易さから北半球主導で行われてきた超高層大気研究が、南半球でも同じレベルで実現されつつあることを感じ、自分の専門であるレーダー観測において、このプロジェクトに貢献したいと強く感じました。
上述したように、私が研究している夏季中間圏レーダーエコーは、寒冷化した中間圏に生成された氷がその起源となっています。この中間圏に存在する氷は地上からも肉眼で見ることが可能で、夜光雲と呼ばれています。観測のされかたは異なりますが、レーダーエコーと同様に中間圏の温度構造を反映する物理現象です。3日目に行われたバンケットの帰り、トラムの車窓からふと外を眺めると、これまで論文などでしか見たことのなかった夜光雲が夕暮れの空を覆っていました。研究に実際的に役立つことではありませんが、自分が研究対象としている物理現象を、自分自身の目で見ることができたのは非常に幸運でした。
最後にもう一度、このような貴重な機会を与えてくださった方々に深く感謝致します。会議を通して得られたインスピレーションを今後の研究活動に役立て、IPY-4において実施されるであろう様々な取り組みに貢献していく所存です。