(内容の要旨)
本研究では,下記6つの部分を通じて,年金制度に関する全体的な法政策に対して,事業主(母体企業),従業員(加入者,受給者),外部年金資産管理運用機関の間の多角的法律関係(三者間の法的関係)を分析しながら,年金の加入者,受給者の利益への保護が不足していることに関する法律上の問題および年金保険料の運用効果向上に関する財政制度上の問題を検討した。また,今後の年金制度設計につき,本研究の研究内容に基づき中国向けに年金法制度,年金税収政策,各社会保障制度との連携政策の進め方を論じた。
第一部分「年金制度理論」(第1章:日本における年金制度,第2章:世界各国の年金制度)では,日本および他の先進諸国の現行の公的年金制度および私的年金制度を総合的に調査・分析を行い,かつスウェーデン等の欧州諸国の年金制度をアジア文化圏の日本および中国に導入することができる可能性の検討を試みた。
第二部分「年金の加入者・受給者と母体企業の法的関係」(第3章:年金受給権の法的根拠と給付減額,第4章:年金減額の裁判例)では,学説と裁判例を検証し,年金の加入者,受給者と母体企業間の年金受給権を中心としての権利・義務関係を論述し,具体的な裁判例に対し私見を提示した。
第三部分「母体企業と外部年金運用機関の法的関係」(第5章:信託法理における受託者責任および年金制度運営,第6章:年金ガバナンス)では,年金資産の管理・運用を行う仕組みを確保するための年金ガバナンスについて検討し,かつ,外部年金資産管理運用機関が負う忠実義務および善管注意義務を説明し,外部年金資産管理運用機関が忠実義務・善管注意義務に違反したときの責任を明らかにした。
第四部分「外部年金資産管理運用機関と年金の加入者・受給者の法的関係」(第7章:加入者・受給者の外部年金資産管理運用機関に対する権利請求,第8章:エリサ法における受給権保護及びエリサ法から日本への示唆)では,日本法に基づき年金の加入者・受給者と外部年金資産管理運用機関の間の法的関係を論じ,また米国のエリサ法上の加入者・受給者を保護する規定につき日本または中国へ示唆を与えられる部分を示した。 |