<令和X年度修士論文(近畿大学XX大学院XX研究科)>
観光地における文化財の保護・活用への取組に関する一考察
- 外国人観光客を中心に -
A study on the protection and utilization of cultural properties
in tourist areas
- Mainly for foreign tourists -
論文要旨
新井(2008)が日本の遺産登録地の中には、登録後の観光客の増加による景観の破壊、環境の悪化というケースが多く、景観の保全と地域資源の活用の両立が大切な社会課題になると指摘した。周知のように、文化遺産の多くが長い歴史の中で生まれており、地域・民衆または国家の貴重な財産と言える。一度破壊されれば二度と元の姿に戻すことができない。観光地には、外国人観光客を誘致し、地域活性化のために景観資源の活用において、外国人観光客の非文明行為への防止措置、ニーズに満足する措置を行う必要があると考えられる。
交通手段の進化やインターネットの普及を伴い、日本では価値の遺産を世界遺産に登録する動きが多くあり、訪日外国人が誘致されている。高坂(2014)によれば、2013年に訪日外国人数が1000万人を突破したものの、東日本大震災のため、2011年は過去より大幅に落ち込んでいる。一方、小室(2014)によれば屋久島、白神山地、白川郷、琉球グスク群、紀伊山地の 霊場と参詣道、石見銀山遺跡とその文化的景観が世界遺産の登録によって観光客が急増しており、そのうち、外国人観光客に関しては、「(平成24又は25年の数値で白川郷約15万人、紀伊山地(和歌山県)約8万人、屋久島(宿泊客)約2千人、石見銀山(大森)約1,600人)」を集客していると指摘した。日本では、「文化財保護法」により、文化財の価値を損なうことなく後世に継承する「保存」と鑑賞体験による地域振興の「活用」両立を確保しなければならない。和歌山県田辺市では、「持続的な観光地づくり」の方針のもと、地域資源の保全と観光振興の両立を確保するために、外国人観光客に対してニーズに応える観光開発を行っていると同時に、観光客のマナーを改善するルールを実施している。例えば、新たな文化財保護と観光の関係を構築しようとする試みがあり、観光客の力を“借り”で文化財保護をする取り組みがある。例えば、観光客への道普請プログラム。大手旅行会社が道普請を旅行に組み込んだツアーを販売している。
本研究では、外国人観光客を中心に、行政、地域住民、NPOの社会団体の取組から観光地における文化財の保護及び活用を考察する。京都市の祇園祭と二条城、和歌山県田辺市における世界遺産の「熊野古道」、「熊野三山」、湯の峰温泉を事例に、聞き取り調査を行って、文化財の効果的な保護・活用で問題点や解決策を明らかにする。
キーワード:観光地 文化財 外国人観光客
Abstract
Arai (2008) is a Japanese heritage site, there are many cases of destruction of the landscape and deterioration of the environment due to the increase of tourists after registration, and social issues that balance of conservation of landscape and utilization of regional resources is important Pointed out that As well known, many of the cultural heritage are born in a long history, and can be said to be a valuable asset of the region / people or nation. Once destroyed, it can not be restored to its original shape again. It is thought that it is necessary to attract foreign tourists to sightseeing spots and to take measures to prevent foreign tourists from taking non civilized actions and to satisfy needs in the utilization of landscape resources for regional revitalization. Be
With the evolution of transportation methods and the spread of the Internet, there are many moves in Japan to register heritage of value as a World Heritage Site, and foreign visitors to Japan are attracted. According to Takasaka (2014), although the number of foreign visitors to Japan surpassed 10 million in 2013, due to the Great East Japan Earthquake, 2011 has fallen significantly from the past. On the other hand, according to Komuro (2014), Yakushima , Shirakami Sanchi , Shirakawa-go , Ryukyu Gusuku group , the sacred place and visit road of Kii mountain area , and Iwami Ginzan ruins and their cultural landscape are rapidly increasing tourists by the registration of world heritage. , of which, with respect to the foreign tourists, "(2012 or Shirakawa-go about 15 million people in the 25 years of the numerical value, the Kii Mountain Range (Wakayama Prefecture) about 8 million people, Yakushima (guest) about 2 thousand people, Iwami silver mine (Omori) About 1,600 )) was pointed out. In Japan, it is necessary to ensure the coexistence of “preservation” to be passed on to future generations without losing the value of cultural properties and “utilization” of regional promotion by appreciation experience by “the cultural property protection law”. In Tanabe City , Wakayama Prefecture, in order to ensure the balance between conservation of local resources and promotion of tourism based on the policy of "sustainable tourist resort creation" , tourism development to meet the needs for foreign tourists is carried out At the same time, they are implementing rules to improve the manners of tourists. For example, there is an attempt to establish a new relationship between cultural property protection and tourism, and there is an effort to "protect" cultural properties by "borrowing" the power of tourists. For example, a program for road construction for tourists. A major travel agency sells a tour that incorporates road expansion into travel.
In this research, we will examine the protection and utilization of cultural properties in the tourist area from the approach of the administration, local residents, and social groups of NPO, focusing on foreign tourists. Interviews with temples and shrines in the Tanabe city and Kyoto area in Wakayama prefecture will be conducted to clarify problems and solutions through effective dissemination and utilization of cultural properties.
Keywords: tourist destination cultural property foreign tourists
序章
背景・政策・問題
20 世紀末に入って以来、ソフト・パワーの発展に諸国が力を注ぎ、文化と創造性を核心とする創造産業の促進を目指す政策が数多く実施されてきた。一方、観光地における文化財の保存活用が重視されつつあり、文化の活用で各産業と連携し、新たな可能性をひらく試みが進んでいる。こうした理念及び創造産業の振興の影響で、ユネスコと国際連合等による「Creative Economy Report 2013 <Special Edition> Widening Local Development Pathways.」では、文化遺産が創造産業に貢献しうるのを掲げている。観光地では文化財の活用と保護に関する政策は数多く講じられている。他方、2003年に、日本は観光立国宣言を発し、観光振興を本格化し、「2020年にインバウンド(訪日外国人客)集客2000万人」の目標を掲げた。その目標が2016年に前倒しで達成した。現在、日本は2020年に、訪日外国人観光客を4000万に、2030年に6000万に増加させる目標を掲げている。
和歌山では、文化財の活用政策について、最初に2010年制定された「和歌山県観光立県推進条例(議員提案)」が挙げられる。それをきっかけにして様々な観光振興実施行動計画が推し進められ始めた。観光へ文化財の利用は和歌山の観光産業振興における重要課題の一つとなり 、外国人観光客の誘致にも役立てる。和歌山観光振興課の報告によると、外国人観光客数は年々増加傾向にあり、平成28年度外国人宿泊客数は500191万人に達し、27年の427594人より大幅に増加した。
しかし、外国人観光客の急増に従い、「観光公害」の問題も深刻になっている。つまり、観光客が押し寄せることによって、景観や文化財、住民生活への損害が発生することである。文化財における立ち入り禁止区域への侵入、文化財への落書きなどの外国人観光客のマナーの悪さが問題となっている。例えば、広島県の世界遺産・巌島神社の大鳥居は倒壊の危機にある理由はそれにコインを差し込む外国人観光客が後を絶たないとのことである。現地住民の反発や不満は外国人観光客の満足度を低下させ、観光業の発展を損害する可能性がある。
持続可能な観光地づくりのため、文化財を利用し、外国人観光客を誘致する同時に、異なる文化背景を持つ外国人観光客の非文明行為を防止し、地域振興及び文化財の保全の目的に達する取り組みから問題点と解決策を探し出す必要もあると思われる。
先行研究
まず、文化財を利用した観光地づくりの研究については、森(2009)、庄子(2009)、又吉(2013)、森屋(2014)、丁野(2017)などが挙げられる。森(2009)は江島神社を事例として挙げて、観光地化という地域社会の変化のなかで、江島神社への参詣の形態や意味づけ、さらには神社とその周辺環境の施設や景観の持続と変容について、具体的な動態を跡づけつつ考察した。庄子(2009)は従来型の観光地と地域づくりの新たな手法として観光を活用する地域を区別した上で、宮城県大崎市松山地区を事例として、後者の地域にスポットを当て、観光まちづくりの展開可能性の検討を行ってきた。当該地域においては、観光の意義をしっかり見据えた上で観光をまちづくりのなかに上手に利用していくことができるならば、地域の魅力を高めていくことにつながることが示唆されたと指摘した。又吉(2013)は沖縄県民と外国人観光客とを結ぶ新たな異文化交流活動として沖縄の伝統ある大網引きの世界大会開催を提案し、地域文化の魅力と価値を観光価値に転化する可能性を検討した。前述の先行研究から分かるように、地域の文化財資源(神社境内の景観、信仰、祭礼など)を利用して、観光業を発展することができて、さらに地域まちづくりにも役立てる。それについて、丁野(2017)は「文化遺産の活用が地域の新たな誇りと創造の起爆剤となる」ことが期待できると明らかに指摘した。そして、文化財の活用に当たっては、あくまでも文化財の保護を前提とすることから、保護の為の必要事項を予め定め、調整を図る必要がある。
次に、観光地における文化財の保護、持続可能な観光地づくりについては、新井(2008)、苅谷(2008)、北川(2014)、井上・奥井・中村(2018)などの研究が挙げられる。新井(2008)は世界遺産登録地の中には、観光客の急増に伴い環境破壊や景観悪化の問題が発生している課題を取り上げ、地域資源の保護と活用を両立させた持続可能な観光地づくりの取り組みを考察した。苅谷(2008)は文化財建造物の保存と活用の現状と展望について考察した。北川(2014)は観光資源の活用と保護に関する政策の歴史および近代後の展開を考察した。井上・奥井・中村(2018)は地域住民の生活を中心に、外国人観光客の急増に伴う騒音、交通混雑や事故、ゴミの増加、風景破壊などの問題及びその対応策を調査し、持続可能な観光政策のあり方を検討した。
そして、外国人観光客への対応策、外国人観光客による観光公害については、新井(2008)、藤田(2009)、加藤(2014)、高坂(2019)などの研究が挙げられる。新井(2008)の研究では、一般的な観光客による「観光公害」の問題について、活用と保護を両立させた持続可能な観光地づくりを検討したが、外国人観光客に言及しなかった。外国人観光客の場合では、文化背景の相違、コミュニケーションの障碍、マナーの不理解などによる「観光公害」も存在する。藤田(2009)と加藤(2014)は観光接触場面で外国人観光客への対応について、主に異文化コミュニケーションや言語に焦点を合わせて検討したが、文化財への侵害を考察しなかった。高坂(2019)は外国の観光公害の対応策を参照し、観光公害に対して日本観光地の取り組みのポイントを指摘し、具体的な事例に基づき、国と地域に求められる取り組みを提案した。
それらの先行研究から分かるように、外国人観光客による観光公害の目線を中心とした持続可能な観光地づくりについては、主にマナーの問題、騒音、交通混雑、ゴミの増加などのような現地住民生活への侵害の視点により考察され、文化財への侵害に向けの政策はまだ深く研究される必要がある。
研究目的
近年、外国人観光客による観光公害の深刻化及び持続可能な観光地づくりが課題となっている。本研究は文化財を活用した観光地では、異文化背景を持つ外国人観光客を誘致し、文化財への侵害を阻止する政策、つまり文化財の活用と保護を両立させる持続可能な観光地づくりの政策を提案することを目的としている。
研究方法
本研究は主に文献調査と事例調査の研究方法を利用する。
文献調査:日本における観光業の発展、観光政策の歩み、観光へ文化財の応用、文化財の保護と
活用、持続可能な観光地づくり、外国人観光客による観光公害などに関わる先行研究を収集し、
研究成果と課題を考察する。
事例調査:本研究は京都市の祇園祭と二条城、和歌山県田辺市における世界遺産の「熊野古道」
(「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部)、「熊野三山」(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那
智大社)、湯の峰温泉(日本最古の温泉)を事例に、文化財の活用と保護に関する政策及びその
実行を考察する。
論文構成
序章では、研究背景、研究目的、研究方法、先行研究などを述べる。第1章では、観光地づくりにおける世界遺産などの文化財の活用と保護に関わるを紹介する。第2章では、京都と和歌山における文化財保護政策を考察し、京都と和歌山の事例を通じ、文化財を活用した観光地づくりの現状、文化財の保護政策の実施などを考察する。特に、外国人観光客を対象に、どのような文化財の保護政策を講じているかを考察する。現在の文化財の活用と保護の政策における問題点を考察する。第3章では、第2章の考察を踏まえ、外国人観光客を対象に、観光地づくりにおける文化財の活用と保護の両立の政策について提案する。終章では、本論文の研究結果をまとめ、不足なところを説明する。
参考文献
1、又吉斎 『沖縄の伝統文化大綱引きと観光の活性化への検討:沖縄世界大綱引き大会の発展へ』 (日本教育情報学会 2013)
2、森屋雅幸 『コミュニティによる地域文化財の保護と活用の考察 ─山梨県内における藤村式建築保存・活用の動向を中心に』 (法政大学大学院 2014)
3、根岸洋 『考古遺産と観光 −史跡秋田城跡を巡る事例研究−』 (秋田国際大学 2015)
4、馬場憲一 『「伝説地」の文化財保護をめぐる動向と新たな取り組みについて:「記憶の場」の保存による地域アイ デンティティ形成の視点から』 (現代福祉研究 2017)
5、柿本佳哉 『地域遺産の選定と特徴に関する研究』 (都市計画論文集 2017)
6、森悟朗『観光の地域づくりと宗教文化資源―神奈川県江の島の事例から』(宗教研究 2009)
7、庄子真岐『地域づくり型観光街づくりの展開可能性に関する一考察:宮城県大崎市松山地区を事例として』(地域環境研究:環境教育研究マネジメントセンター年報 2009)
8、丁野朗『文化遺産を活用した地域づくり』(調査研究情報誌 2017)
9、新井直樹『世界遺産登録と持続可能な観光地づくりに関する一考察』(地域政策研究 2008)
10、北川宗忠『「観光」に関わる資源の保護と活用―特に文化観光資源に関わる保護制度と活用の課題について』(神
戸海星女子学院大学研究紀要 2014)
11、竹島信夫『我が国の観光振興(主にインバウンド)政策の歩み』(和洋女子大学紀要 2018)
12、藤田玲子『観光立国ジャパン―異文化コミュニケーション力に関する一考察』(コミュニケーション科学 2009)
13、苅谷勇雅『文化財建造物 保存と活用の新展開』(政策科学 2008)
14、高坂晶子『求められる観光公害(オーバーツーリズム)への対応―持続可能な観光立国に向けて』(JRIレビュ
ー 2019)
15、井上夏穂里・奥井健太・中村卓央『持続可能な観光政策のあり方に関する調査研究』(国土交通政策研究所報 2018)
16、加藤好崇『観光立国を目指す日本のツーリスト・トーク再考―和式旅館における観光接触場面』(東海大学大学院日本語教育学論集 2014)
17、周超『日中無形文化財保護法の比較研究』